○ 文鎮の木犀の風抑へゐる 黛 執・選 「春野」掲載
ぶんちんのもくせいのかぜおさえいる
季語・木犀 秋
金木犀の香る風が庭から書斎へ吹き抜ける秋の午後。書道の半紙が巻き返り飛ぼうとするのを文鎮を置いて抑えたという景。なお「(文鎮)の」は「ーが」の意味の俳句的格助詞の用法。 |
○ 父と子の黙して碁打つ夜長かな 大串章・選 「百鳥」掲載
ちちとこのもだしてごうつよながかな
季語・夜長 秋
蒼穹の父は大正5年生れで、85歳でしょうか、元気です。近所に暮らしており、休みにはときどきへぼ碁を打ちます。新潟日報の俳句欄に蒼穹が入選していると喜んで電話で教えてくれます。この句はありのままですね。 |

○ 渋柿も酒の力を借りるとふ 中原道夫・選 「新潟日報」
しぶがきもさけのちからをかりるとう
季語・渋柿 秋
新潟日報での特選句。柿の渋抜きに焼酎を使うことと人間がよった勢いで行動することを二重意味化したわけですね。「とふ」は「と言う」の意味の古文的表記法。 |
○ 銀杏はわづかな毒のうまさやも 中原道夫・選 「銀化」
ぎんなんはわずかなどくのうまさやも
季語・銀杏 秋
こどもは銀杏を食べ過ぎると含有する神経毒でけいれんを起こすことが医学上知られていますよね。焼き銀杏とか茶碗蒸など好物と言う方も多いでしょうが、ほ・ど・ほ・ど・に。 |
○ 秋刀魚焼く門にシャム猫来てゐたり 大串章・選 「百鳥」
さんまやくもんにしゃむねこきていたり
季語・秋刀魚 秋
平成12年秋に、生まれて初めて「句会」なるものに出てみたときの佳作入選句。土曜日の午後、東京大久保の俳句文学館で「ふらんす堂句会」。その日の主宰は鷹羽狩行の結社・狩の片山由美子先生。当日行くと、その場で課題(席題と言います)「門」を即興で読み込んで作る制限時間20分以内の一句でした。
お澄ましの血統書付きシャム猫も、近所のドラ猫といっしょに秋刀魚の煙に誘われてという犬猫の多い新興住宅地に暮らすので半分は実話のような景。「シニカルな滑稽味がある」とのお褒めの評を頂戴して…、すっかり俳句の道にのめりこみ。ゴルフで例えますと、初ラウンドでバーディーが取れてハマッタような感じですな。 |

○ 毬栗の海に流れて雲丹となる 大串章・選 「百鳥」
いがぐりのうみにながれてうにとなる
季語・毬栗 秋 (実は雲丹も春の季語なんですが、この際は即物として)
山で栗の木から落ち転げて、川に流された毬栗の行方を真剣に考えていた時に、その外観の類似性から連想が閃いたのでした。そんなばかばかしい…と力を抜いたおあそび滑稽路線の句のつもりです。むしろ抒情派の俳人大串章先生が入選にしてくださいましたのには、正直言って驚きました。 |

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