<大パンダ>


 第8景  「ぼくは眠いから」 (2002.9.18)

  世間では秋の三連休とからしいが、小児の入院で重症患者があり、心配でほんとは自分の休日の番だった日も病院に診察にきていました。
  その三日目は救外でもともと日直当番で診療。以前喘息で治療したことのある三歳の男の子で、おしゃまな五歳のおねえさんも付添いです。
「おや、けんと君、息が苦しそう」
「ゆうべから咳込んで、息苦しくて、朝までがまんさせてました。」
「そういうときは夜中でも来ていいんですよ。もちろん薬はあれこれ予備追加用も飲んだんですよね?」
「はい、おとついから。今朝はもう飲んだけれど、みんな吐いちゃいました。」
  入院と決定して、書類手続を事務に依頼。多呼吸、喘鳴が苦しそう。経皮酸素飽和度は90%。ただちに酸素吸入開始。飽和度が上昇した数分後に、気管支拡張剤の吸入を施行。また引続きマスクで酸素吸入しながら待機中でした。

「せんせい、患者さん、へんです!」
  看護師の呼ぶ声にかけよると意識がもうろう状態。ただちに静脈ラインの確保、ソルメドロール (ステロイド剤)の静注、点滴、気管支拡張剤のテープを貼らせました。また傾眠。痛み刺激にはかろうじて、身動きだけ。昏睡スケールで三ケタです。
  付き添って病棟に運ぶ途中で開眼しましたが、ただし呼びかけ応答はなく、昏迷状態。数分後の血液ガス・血中濃度測定などの採血でやっと声と涙が出ました。まだ意識清明ではありませんが、まずはよかった。各種検査や治療の指示を書きなぐり、わたしは救外の診療に戻ります。

  病棟診察番の若手医師は小児科入院の回診続行中。いざという連絡は両方へと。一時間弱でテオフィリン血中濃度の至急検査の結果の電話が看護師から。低いレベルなのでさらに治療薬剤追加の指示。
「ところでけんと君、意識レベルはどう。」
「さっきはちょっとしゃべるようになって、排尿も起きてできました。」
  ふーん、それはよかった。
  三歳のけんと君、いわく
「ぼくはねむいから、これからねるよ。」
 …きみはよく眠っていてやっと今、目が覚めたとこなんだよ。…。
  ひと安心したおかあさんも涙目で笑っておりましたそうです。