<大パンダ>


 第3景  「違うタイプ」 (2001.11.15)

  今日の午後の腎疾患専門外来の診察予約の一覧では、ネフローゼのりょうちゃんが最後。もうおしまいなのにカルテが来ません。
「りょうちゃん、まだ来てないの?」
「いま外来で尿を取り直して検尿の再検中です。本人はお母さんと眼科に先に回りました。」
「ああ念のためのステロイドの副作用のチエックね。でも尿はどうして?持参尿で蛋白が高度に陽性だったの?」
と再発かと心配しました。
「それが…」と事務のこぬまさんが笑います。
「家からの尿を容器見当たらないんで、空き缶に入れて持ってらしたんです。検査室からさっき電話でその尿にダニがいて当てにならないのでと再検の依頼が…ふふふ。」

  すっかり五時は過ぎて新鮮尿の再検結果も届きました。蛋白も陰性です。りょうちゃんとママの登場。
「遅くなったけれどだいじょうぶでしたよ。検査のひとが驚いて目を回したらしいけどね。」
「すみませーん。入れ物がなくて、あの空き缶やっと見つけたんだけど、開けて2年前のだったみたいで。」とママ。
  再発を早期発見するために、家庭用にも無料サービスでアルブティック(尿蛋白測定用ペーパー)を渡してあります。一年前の再発ではさぼっていたんで重症になっていてやむなく再入院でしたきちんと毎朝尿検査をしてねと念を押します。
「昨日さ、ネフローゼの子が風邪をきっかけに一年ぶりに再発しちゃったし、気をつけようね。」
「えー、あのM町のひと?」
「うん、M町のげんちゃんだけど、住所までよく覚えているね。」
「だって一年前のりょうちゃんの入院のときいっしょのふたり部屋だったんでーす。あたしと全然違うタイプのお母さんだったわ。」
「ふーん…。」
「だって真剣なんだもん。こどもの病気、ぜったいなおさなきゃ…って感じ。あっあたしと違うと思った。」
「なーるほど。…そんなことはないさ、とはたしかに言えないなあ。あ・は・は・は・は。」と大笑いのわたし。
ママも笑いながら
「うふふ、せんせい、受け過ぎですよ。」
  りょうちゃんはまた診察用ライトの先端を片方の鼻の穴の中に突っ込んでぴかぴか光らせ、まけじと笑いを取りにきました。
「りょうちゃん、それは汚いからだめっていったじゃん。でも思わず笑う自分が、せんせいもなさけないや。」
「あたしもです。こら、りょうちゃん。いたずらしたらおやつ買って上げないって言っといたよね。」
  にぎやかに診察室を出て行く、これは同じタイプの親子でした。