<小さな市町村ではなぜ予防接種が個別化されないのか?> (2002.5.21)
見附市 はしもと小児科  橋本尚士

  平成6年に予防接種法が全面的に改正され,麻疹,風疹,3種混合,2種混合,日本脳炎ワクチンは原則として被接種者が希望する医療機関で個別接種することになりました.
  しかし,実際には,小さな市町村では集団接種のままで個別化されていません.小さな市町村は同法および運用に関する通知の例外規定を利用して,集団接種のままでいます.当院周辺では,長岡市ではこれらのワクチンは全て個別化されています.見附市,中之島町では乳幼児へのワクチン接種は個別化されていますが,児童・生徒については個別化されていません.栄町,与板町,和島村,三島町は全く個別化されていません.全国的にも,大きな都市では個別化が進み,小さな市町村では集団接種のままであるという傾向があります.

  小さな市町村は個別化しない理由として,(1)財政的にゆとりがない,(2)市町村内に個別接種に対応できる医療機関がない,などを挙げています.
  さて,これらの理由は妥当なのでしょうか?
  まず,「財政的にゆとりがない」という理由ですが,まったくの的外れです.国から 県,県から市町村への権限移譲つまり地方分権により,予算の執行については市町村の裁量が大きくなりました.しかし,地方交付税は,先にあげたワクチンを全て個別接種で行なうことを前提に算定され,実際に交付されています.したがって,個別化 しない市町村は子どもの健康のために使われるべき税金を他の目的に使用しているわけです.
  次に,「市町村内に個別接種に対応できる医療機関がない」という理由ですが,これも的外れです.交通至便な現在では,自動車を10-20分も運転すれば(たとえ同一市町村内でなくても)小児科医でワクチン接種を受けることができます.医療機関を利用する時だけでなく,通勤,買い物,遊びなどでも,一般住民は車を運転して市町村の境界を無意識にまたいでいます.市町村境界をまたがなければ,まともな日常生活を送ることができません.

  それでは,小さな市町村がワクチンを個別化しない本当の理由は何なのでしょうか?
  例えば,人口20万人のA市には病院小児科医,開業小児科医が合計10人いて,これに隣接する人口1万人のB町には全くいないとします.A市もB町も予防接種法に定められた通りにワクチンを個別化したとします.当然,A市の子どももB町の子どももA市内の医療機関で接種を受けます(
★参照,重要).個別接種の料金は,A市およびB町の予算から出ており,これらはすべてA市内の医療機関に支払われます.A市内の医療機関は法人住民税をA市に納めますが,B町には一銭も納めません.つまり,A市およびB 町から出た個別接種の料金の一部はA市には還流されますが,B町には全く還流されないわけです.A市に還流された接種料金の一部はA市の次年度の予算の足しになります. しかし,B町には接種料金は全く戻って来ないので,次年度の予算の足しにはならないのです.
  「B町のようになりたくない.市町村の予算はその市町村のなかで使われるべきだ.」 これが小さな市町村が予防接種を個別化しない本当の理由です.市町村のつまらない都合なぞは,子どもにとっては迷惑なだけです.お子さんの体調の良い時に,そのお子さんのからだの具合をよく知る小児科医で,きちんと診察を受けてから個別にワク チン接種を受けるのが,「正しい予防接種の姿」です.
  子どものワクチン接種は予防接種法に定められた通りに個別化をするように市町村に求めましょう.もし,市町村が個別化しない場合には,新潟県には広域的予防接種制度があるので,これを利用しましょう(個別化しない市町村ではこのような「子ども に優しい」制度があることを積極的には広報していません).当院でも契約していますので,全ての市町村のお子さんが個別接種を受けることができます.是非御利用ください.

★ ワクチン接種は「小児科医」で受けましょう.ワクチン接種は日本小児科学会認定小児科専門医,日本小児科医会所属会員で接種することを強くお勧めします.私達小児科医はワクチンについて日々知識を修得し,安全で効果の高いワクチン接種を心掛けています.ワクチンに関する情報収集は非常に重要です.
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