6)トイレトレーニングから『おむつはずれ』へ
佐藤 昌子
 布おむつを使用していた時代のお母さんたちは、おむつの洗濯から少しでも早く解放されるために、1歳になる頃から排泄の自立を考え始めていたようです。しかし、紙おむつが普及してからは、おむつにかかる費用はともかく、排泄物で汚れたおむつの洗濯という手間の掛かる仕事はなくなっており、トイレトレーニングは以前ほど急務ではなくなっていると思われます。ですから、最近のお母さんたちは1歳半から2歳前後に、トイレトレーニングを始めることが多いのではないでしょうか。
しかし、便器で排泄できるようになるには、一定の年齢に達するということだけでなく、子ども本人の条件、環境の条件がそろわなければ難しいものです。
 まず、子どもの条件としては、?おしっこの間隔があいている、?「おしっこしたい」という尿意に気づくことが出来る、?トイレまでおしっこを我慢できる等があげられますし、環境の条件としては、?気候が暖かい、?排泄場所が日常の生活の場から比較的近い等があげられると思います。さらに、子どもの性格も大きな要因となりうるでしょう。排泄物で皮膚が汚れた時にすぐに不快に感じる敏感な子どもや、「トイレに行こう」という誘いに素直にのってくるような子どもは比較的スムーズにおむつがはずれる可能性が大きいでしょうし、その反対の子どもでは時間がかかるかもしれません。
 いずれにしろ、反抗期であったり、言葉の理解が十分でない時期の子どもに何かを教えるというのはかなり難しいことですから、年齢にこだわらず、発達段階、性格、環境等の条件に合わせて、それぞれのペースでのんびりと始めればよいと思います。
 トイレトレーニングの準備段階として、子どもにおしっこやうんちを意識させること、トイレがどんな場所か教えることも大切だと思います。乳児期から、おむつを替える時に「シーしたねえ」、「うんちいっぱいでたね」等と話しかけながら行うことは、子どもが排泄を意識するきっかけになるでしょうし、親子のコミュニケーションや言葉の発達を促すという意味でも大切だと思います。また、家族が実際にトイレで排泄するところを子どもに見せるのも良いでしょう。身近な家族がトイレを使っている場面を見ることで、子どもはトイレとは怖いものではなく、家族みんなが気持ち良くなる場所であるというイメージを持つことが出来るはずです。排泄に関する絵本も出版されているので、それらを親子で一緒に見るのも良いと思います。
 その後は、最初は真似をさせるだけでも良いですから、時々、トイレやおまるに誘ってみましょう。もちろん、タイミングよくおしっこやうんちが出来れば、たくさん褒めてあげて下さい。トイレに誘っても、嫌がったり、遊びに夢中であれば、無理せず次のタイミングを狙った方がよいでしょう。また、全く興味を持たないようであれば、時間をおいての再チャレンジを繰り返して、その子の機が熟すのを待てば良いと思います。
最近は、トイレトレーニングという言葉を使わず、『おむつはずれ』と表現しようという考え方も出てきているようです。無理矢理トレーニング、つまり訓練して身につけさせるのではなく、毎日の生活の中で、それぞれのペースでおむつをはずしていけばよい、という考え方には私も賛成です。
清潔な環境で育ち、水洗トイレしか知らない世代の親にとっては、床や衣服を排泄物で汚されるということは、想像以上のストレスとなるでしょう。急いでおむつをはずそうとして、失敗した際に子どもを叱ってしまい、親も子もストレスをためるような悪循環は避け、パンツ型紙おむつ、トレーニングパンツ等を利用しながら、一人一人のペースに合わせてすすめていけばよいと思います。
ご存知のように、おまる、補助便座等については、雑誌、ホームページなどに情報満載です。キャラクターのついた物、踏み台にもなる物など様々ありますが、これも、子どもの性格、環境に合わせて選択すればよいでしょうし、一時期しか使わない物なので、まずは知人のお下がりを使うとか、リサイクルショップで安く購入して試してみるということでも良いのではないでしょうか。
最後になりますが、中越地震後の乳幼児健診で育児相談を担当した際に、「トイレでおしっこできていたのに、地震後、またおむつに戻ってしまった」、「小学生の子が一人でトイレに行けなくなった」等の相談を受け、排泄の問題は子どもの心の状態に影響を受けやすいということを実感しました。大人からすれば些細なことでも、子どもは不安になったり、恐怖とさえ感じることがあります。言語化して表現できない小さな子どもの場合、その不安は心の中にしばらくの間、しっかりと残ってしまうことがあるようです。
発達の過程で、『おむつはずれ』はもちろん、それ以外にも、一度出来るようになったことが、また出来なくなって後戻りしても、決して叱らずに、ゆっくりと見守ってあげて欲しいと思います。親が見守っていることで、子どもの柔軟な心は少しずつ、不安を消化して、また、後戻りした道を前に向かって進み始めていくでしょうから。