10)眠らない子どもたち
佐藤 勇
 子どもたちの学力低下や体力低下、心の問題など教育現場ではいろいろな問題を抱えています。これらの問題の背景として、幼少児期からの生活リズムの乱れや、朝食の欠食が心配されています。「睡眠リズム」がみだれると、「摂食リズム」がみだれ、学校でだるさや眠気を訴え、「活動力」が低下し、運動不足となってゆきます。
【今どきの子どもたちの睡眠事情】
 最近の調査で、日本の子どもたちが夜寝る時間は遅くなっていることがわかりました。現在では半数以上の3歳児の寝つく時刻は夜10時以降になっています。世界でも、日本の子どもが最も遅寝であることが報告されています。夜9時前に寝るお子さんに比べ、夜 11時以降に眠るお子さんでは、昼寝も加えた1日の総睡眠時間が約1時間少なくなっていることがわかったのです。また、小学校の高学年から中学生へのアンケートでは、最も活動性が高くなるはずの、3,4時間目に眠気を感じている子が7割以上もいるというデーターもあります。眠気を生じている夜更かしの理由では、「何となく」「テレビやビデオ」「家族が遅いから」などが上位に上がっています。つまり、子どもたちの睡眠事情には、家族を含めた環境要因が強く関与している可能性があります。
【夜ふかしのもたらすもの】
 本来人間は、太陽が昇ったら起きて活動し、沈んだら眠ります。昼夜の区別がつかなくなった24時間社会では、子どもたちは、乳児期から睡眠リズムが乱され、テレビなどにより夜でも光刺激を受ける時間が増えます。陽光刺激をえて昼夜の違いを理解し、生活リズムを作ってくれるはずの脳機能に「かく乱」が生じています。また、生活環境の近代化・便利化により、体を使わないですむ社会になってきたことで、ストレスをためやすい状況になっています。
 こういった変化は、子どもたちのさまざまな調査結果に現れてきます。就寝時刻が遅いほど学校での成績が奮わないというデーター、起床時間が早いほど、昼の活動量が多い、また就寝時間が遅いほど、昼の活動量が少ないというデーター、遅く寝る子ほど、朝食をとらないと言うデーター、毎日朝食をとる子の方が成績がいいというデーター、これらが物語っていることは、遅寝遅起の夜型リズムは、本来の生物としての体のリズムとは異なり、体にゆがみを生じているといえるでしょう。
【生体時計の大切さ】
 睡眠の大切さをお話する際にいつも聞かれるのは、「どのくらいの睡眠時間が適切か?」という質問です。じつは、最も大切なのは、時間ではなく、早寝早起きのリズムの形成なのです。人には生体時計があり、その1日は、大多数のヒトで約25時間といわれています。人は生後3〜4ヶ月以降は、朝日など地球時間の手がかりの情報を上手に使うことができるようになり、毎日自分の生体時計を地球時間に合わせること、つまり1時間早めること(リセット)ができるようになります。つまり生体時計を早める作用のある朝、あるいは午前中の光を浴びることが非常に重要となるわけです。このように体内のリズムがきちんと調節されていることが体調維持に重要ですが、時差ボケに代表されるようなリズムのずれ(脱同調)が生じてしまうと、不眠、眠気、作業能率低下、全身倦怠感等の症状が見られます。体内の様々なリズムを光によって毎日調整することが、よい体調を維持するためにいかに大切であるかがおわかりいただけるでしょう。「朝寝や昼寝がたくさんできれば、遅寝でもかまわないのですか?」というご質問に対する答えはノーとなります。不規則な睡眠が睡眠覚醒のリズムの乱れをもたらし、リズムの脱同調につながる可能性があるからです。
【生活リズム改善へ向けて】
  筆者は、上越市旧三和村の小学校(農村部)と新潟市の小学校(都市部)で、児童と父兄を対象に、睡眠の問題の講演会と引き続き小グループによる討論をおこない、児童と父兄夫々から改善策を提案する企画を行った経験があります。三和村では、父兄が自分たちの幼い頃と子どもたちの生活を比較して、自分たちの生活の変化を感じ取っている様子が印象的でした。新潟市での討論では、朝食をとらない子の親もとっておらず、起床時間の遅い子の親も遅く起きている事が浮き彫りにされました。
 つまり、子どもたちの生活改善の鍵は、大人自身の生活にあるとも言えます。前述のごとく、大人の生活に引きずられて子どもたちも変化しており、逆に子どもたちの変化は、大人たちへの警鐘とも受け取れるといえましょう。