麻疹(はしか)の流行に警戒が必要です

 現在、関東地方で麻疹(はしか)が流行しています。今年1月より4月29日ま
での患者数は188名でした(国立感染症研究所資料から)。そのうち4月が126
名。昨年4月の2名に比べ格段に増加しています。さらなる患者増加が心配されてい
ます。関東地方を中心に流行しており、特に東京都では4月に72名の報告があり、
新潟でも発病する方が増えつつあり、流行が危惧されます。
 
 麻疹は乳幼児に多発する病気ですが、今年は20歳の患者が多いのが特徴です。
5月に入って、あいついで関東の大学が休校されるという、社会問題となっておりま
す。乳幼児で発病した人のほとんどは、予防接種をしな かった為に発病したものと
思われますが(解説1)、20歳代、大人になって発病し た人の中には、ワクチン
を受けていなかった場合に加えて、ワクチンを接種したにも かかわらず、発症して
しまったケースも少なくありません。これには、本来ならワクチ ンの終生免疫、こ
れが持続されずに年月を経て低下したことが原因と考えられます
(これはSVF:secondary vaccine failure と呼ばれる現象ですが、誰にでも起こ
りうることです:解説2)。

 日本における麻疹患者数は、近年のワクチン接種キャンペーンが効を奏して
年々減少してきました。とくに2004〜2006年は最近10年間で最も患者が少
ない状 態になっていました。推計で1年間あたり10万人以下となったと考えられ
ます。それでもこの数字は、諸外国と比べれば(2003年アメリカでは56例:う
ち43例 は外国からの輸入感染です)、決して少ないとは言えません。日本は麻疹
の流行国な のです。

 日本では麻疹排除の目標を2012年としています。目標達成をめざし、200
6 年4月1日に予防接種の方法を改正しました。具体的には、今まで1回接種で
あった麻疹ワクチンと風疹ワクチンを混合ワクチンとして、これを2回接種(1歳時
と小学 校入学前の1年間)することにしました。これは、2回の接種に増やすこと
で、
1)1 回目の接種で抗体を作れなかった子(数%です)に2回目の接種で免疫を作らせる。

2)2回接種することで、時間ともに落ちていく免疫力を増強させる。
3)1歳時に接種できなかった子に入学前に接種の機会を作ってあげる。
これら3つの意味があ ります。
 
 麻疹では約10日間の潜伏期間の後、咳や鼻水とともに38℃以上の熱が出現し
ます。約3日間で一時解熱しますが、再び40℃の高熱をだし、同時に全身に発疹が
出 現します。2回目の熱は4〜5日で下がりますが、麻疹には肺炎、脳炎、中耳
炎、心 筋炎など重篤な合併症が多く注意が必要です。死亡率も0.1〜0.3%
で、大変こわい病気です。

 麻疹の感染力は大変強く、免疫のない人は患者とすれちがっただけでも、感染す
る ことがあります。やっかいなことに、麻疹における初期症状は熱と咳なので、当
初は 風邪と思われていることが少なくありません。数日後に発疹がでてから確かな
診断が なされるわけですが、その間にたくさんの人に伝染してしまってます。

 麻疹には特効薬はありません。ですから予防が重要で、ワクチン以外に有効な対
策はありません。
1)1歳の誕生日を迎えたら、早めに麻疹・風疹の混合ワクチンを受け ましょう。
2)入学前の2回目の接種も忘れないようにしましょう。
3) 1)や2)のワク チン接種対象外でも、麻疹にかかったことがない人で麻疹ワク
チンを受けてない場合 は、自主的に任意でワクチン接種を受けましょう。
4)免疫 があるかどうか心配な方は、医師に麻疹抗体の有無を調べてもらうことが
できます。
5)もし、麻疹患者と接触してしまって、麻疹が疑わしい場合は他者との接触はさけ
て、必ず病院や医院に電話をして医師に相談をしたうえで、受診をお願いいたしま
す。麻疹患者さんの直接受診は、待合室などでの院内感染のもととなります。大変な
こととなりますので、ご理解ください。

 なお、患者との接触から3日以内(72時間以内)なら、ガンマグロブリンの筋肉
注射で発病を防ぐことが可能です。なお、ガンマグロブリンはヒト血液製剤ですの
で、接種にあたってはよく医師の説明を受けてください。また、接触直後であれば、
麻疹ワクチン接種も発病予防に有効との報告もあります。医師にご相談ください。

 麻疹抗体の検査には保険が使えません。これは自己負担になります。また、任意
で 麻疹ワクチンを受ける場合も自費となりますのでご了解ください。
すべての医療機関が予防接種を行っているわけではありませんので、まずはかかり
つ け医に相談されるのが良いでしょう。かかりつけ医がなくお迷いの際は、もより
の保健所または市町村にご相談してください。
 なお現在、抗体検査用の試薬が不足しており、検査ができない場合があります。ま
た、5月現在、麻疹ワクチ ンの在庫は極端に少ない状況にあります。このため、抗
体検査や予防接種を希望される方は、必ず医療機関に事前連絡をして、確認のうえ検
査や接種を受けるようお願い申しあげます。
 
解説1:麻疹ワクチンの接種による抗体陽転率は95%以上で、接種を受けた小児
のほとんどが抗体を獲得しますが、数%は抗体ができるにいたりません(prima
ry vaccine failure:PVF)。
解説2:以前は、生ワクチンの免疫は一回の接種で、終生続くものと考えられてい
ま した。しかし、最近の研究によれば、ワクチン接種後、感染防御レベルの抗体が
持続 されるためには、人は、麻疹ウイルス野生株と接触する必要があることがわ
かってき ました(つまりは、免疫が持続するには、麻疹患者と接触する機会が必要
ということ です)。
近年では、麻疹の流行が減少して、人が野生株ウイルスに接触する機会が少 なく
なってきましたので、ワクチン接種による免疫が低下して麻疹にかかってしまう 例
(SVF:secondary vaccine failure)が数多く報告されるようになりました。

解説1および解説2は予防接種に関するQ&A集(細菌製剤協会編)を参考にしまし
た。
                     平成19年5月新潟県感染症委員会
                          (平成19年5月14日掲載)
                          (平成19年5月26日改訂)