8)家庭看護力醸成

よく聞かれること

 健康講座などで子どもの風邪の話をすることがあります。よく質問に出るのは「どのようなタイミングで受診すればいいのか」といったことです。鼻水や咳などの軽い症状が続いているが、本人はとても元気といった場合です。「自然に治るかも」と思う反面、「手遅れになるのは困る」とも思うし・・いろいろ悩みます。私は「気になることや心配になることがあったら受診してください。」と答えています。子どもの体調管理は親の課題です。いわば、親は子どもの看護師さんでもあるのです。子どもを見ていて気になること、心配なことがあれば、受診してそこを解決しておくことが、家庭で安心して子どもをみていけるコツと思っています。症状が軽い場合は受診の遅れは問題にはなりませんが、緊急治療が必要な場合は受診のタイミングは重要です。受診の遅れが、治療の好機を逸したり、ことによると命にかかわることだってあり得ます。子どもの緊急事態の判断の仕方を保護者は知っておく必要があります。

救命救急センターの小児科医の提案

 先日、日本小児科医会主催の「家庭看護力醸成セミナー」に参加してきました。小児科医や看護師だけでなく、子育て中の保護者や一般市民が参加するセミナーでした。九州の救命救急センターの先生がトリアージの話をしました。トリアージというのは選別ということです。もともとコーヒー豆の選別が語源なのだそうで、医療では事故や救急外来などで重症者と軽症者のよりわけを意味しています。家庭において緊急度の判断をおこなう場合、親がこのトリアージを理解し身につけておくと役に立ちます。このトリアージの方法は一言で言えば「第一印象」です。数秒間の観察でわかる子どもの見た目や外観から、子どもの意識の様子、呼吸の様子、皮膚の血流の様子などを見て判断します。いつだって子どもの急変の第一発見者は親です。子どもの様子から緊急かどうかを判断するのは親の家庭看護力とも言えます。そして、このような判断の目安を小児科医がさまざまな機会を通じて親に指導説明することが必要です。

親にできること

 そのセミナーの中、他の小児科の先生からの話で、急病の子どもをみる時に、親が感じる「いつもと違う」という直感の重要性が指摘されました。いわゆる「親のカン」です。その子のいつもの様子を知っている保護者であるからこそ、「いつもと違う」ことを感じ取れるのです。そして、その気づきが救急医療へつながり治療が展開していきます。親の気づきや判断は重要な親の役目です。また、親自身がみずから学び始める例もあります。セミナーの中で、母親が自主的に情報誌を作って情報発信や交流、学びの場作りをしている報告がありました。子育て中に必要となる小児医療の知識は、ほとんどの親がぶっつけ本番で学んでいるのが現状です。しかし、あらかじめ基本的な知識を学ぶ機会があれば、あわてずにすむことが多いと思います。それが、家庭看護力醸成ということです。